牧千夏の話したいこと

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レビュー_加藤夢三「献身する技術者」(『日本文学』70(8)、2021)

今月発行の日本文学協会の機関誌『日本文学』を読みました。

 

加藤夢三氏の「献身する技術者」(『日本文学』70(8)、2021)についての、まとめと感想です。

 

内容を一言で言えば、

1930年ごろに横光利一が行った、「民族」と「科学」とを結びつける主張は、科学を実践的な技術として捉えることで国家への貢献を求める同時代の言論状況と共鳴していた、というものです。

 

横光の言論としては、「純粋小説論」で民族が取り挙げられたことと、『紋章』で雁金という登場人物が、万人のためという大義をもつ職業技術者であることとが挙げられます。くわえて、加藤氏がこれまで研究されてきた、横光の科学観の推移についても触れられています。

 

そして、同時代の言論は、文学的な言論と技術者に関する言論の両面から説明されます。文学としては、1930年代に知識人が「日常」や「現実」に着目していく言論状況、技術者に関する言論としては、1920年代以降に技術者が行政的なリーダーとして認知されるようになり、そのために国家への貢献が求められた言論状況が挙げられます。

 

それらが共振するという説明にも納得させられました。

 

加藤氏の論文は、論証の仕方や文体までとても勉強になります。コンパクトながらも適確な論証で、かつ多方面から論証の切り口をつくられています。

 

誤読があったら申し訳ありませんが、私としては、なるほどなるほどと、深く頷きながら楽しく読みました。