牧千夏の話したいこと

読んだ本や考えたことを勝手に紹介しています。

本のレビュー-文学研究

多様性を道徳でなく、イノベーションベースで語ろう_『多様性の科学』

マシュー・サイド『多様性の科学』(ディスカバー・トゥエンティワン、2021)を読みました。 一言で言えば 多様性によって、組織やプロジェクトに新たな視点がもたらされ、それがイノベーションやリスク管理に役立つことを、科学的に説明しています。 以下に…

読書メモ_THE VALUES IN NUMBERS

Hoyt Long; THE VALUES IN NUMBERS( 2021 Columbia University Press) を読みました。自力では読めなかったので、DeepLで翻訳して、それと対照しながら読みました。レビューというか読書メモになってしまいました。 序章 医学で、平均値は 文学研究で数値…

レビュー_西田谷洋「信仰としての文学教育」

西田谷洋先生より 「信仰としての文学教育」(『富山大学日本文学研究』8、2021)をご恵送頂きました。 簡単に内容をまとめさせていただきます。 田中実氏の第三項理論とは 作品の語り手を実体的に捉えます。そして、読書という行為を、読者がその語り手を「…

レビュー_大木志門『徳田秋声と「文学」』

『徳田秋声と「文学」』(鼎書房、2021)を、大木志門先生よりご恵送いただきました。まずは、各章の内容をまとめます。 第1章 秋聲旧蔵原稿『鐘楼守』から見る明治の文壇 『鐘楼守』は、伊藤重治郎が下訳し、それを秋声が直し、尾崎紅葉の署名で出版したも…

レビュー_木村洋「女哲学者、平塚らいてう」

木村洋氏の「女哲学者、平塚らいてう」(『日本近代文学』105、2021)を読みました。 一言で言うと 1900年代に、哲学が、若い世代の自己主張の土台になっており、その動きが同時期に文学作品に取り入れられた、ということです。 もう少し詳しく言うと 2では…

教室で文学作品を精読する_『「国語の時間」と対話する』

五味渕典嗣『「国語の時間」と対話する』(青土社、2021)を読みました。 一言で言えば 2018年に公表された「新しい国語」の批判と、作品を精読する授業の提案です。 もう少し詳しく言うと まず、新しい国語科を支える現状把握として PISA:読解力の低下 全…

素早く・たくさん・実社会の文章を読むのが、国語!?_『国語教育の危機』

紅野謙介『国語教育の危機――大学入学共通テストと新学習指導要領』(筑摩書房、2018)を読みました。 一言で言えば、 来年度から施行される高校の学習指導要領の改訂と、大学入試共通テストの批判です。 批判のポイントはいくつかありますが、私は、複数資料…

レビュー_若松伸哉氏「「孤独」な交友」

若松伸哉「「孤独」な交友――太宰治『惜別』と地方文化運動」(『日本近代文学』104、2021)を読みました。 一言で言えば 太宰治『惜別』を、国籍ではなく個人が孤独を介してつながる作品として論じています。 もう少し詳しく 一では、作品で地方性が強調され…

レビュー_『知を再構築する 異文化融合研究のためのテキストマイニング』(ひつじ書房、2021)

内田諭・大賀哲・中藤哲也編『知を再構築する 異文化融合研究のためのテキストマイニング』(ひつじ書房、2021)を読みました。 本書は、KH Coderを使用したテキストマイニングの基本的な使用法と、KH Coderを利用した具体的な研究実践が報告されています。 第…

レビュー_エドワード・W・サイード『知識人とは何か』

エドワード・W・サイード著、大橋洋一訳『知識人とは何か』(平凡社、1998)を読みました。 知識人の性質として、重要なポイントは、次の3つにあると読みました。 ①表象(代表、代弁)する 「わたしにとってなにより重要な事実は、知識人が、公衆にむけて、あ…

レビュー_德本善彦「断絶としての差異」(『日本文学』70(8)、2021)

今月発行の『日本文学』を読みました。 德本善彦氏の「断絶としての差異」(『日本文学』70(8)、2021)についての、まとめと感想です。 内容を一言で言えば、 坂口安吾「イノチガケ」の前篇と後篇の語りの差異が、当時の歴史文学論争における2つの立場の差…

レビュー_加藤夢三「献身する技術者」(『日本文学』70(8)、2021)

今月発行の日本文学協会の機関誌『日本文学』を読みました。 加藤夢三氏の「献身する技術者」(『日本文学』70(8)、2021)についての、まとめと感想です。 内容を一言で言えば、 1930年ごろに横光利一が行った、「民族」と「科学」とを結びつける主張は、科…