牧千夏の話したいこと

読んだ本や考えたことを勝手に紹介しています。

2021-01-01から1年間の記事一覧

レビュー_西田谷洋「信仰としての文学教育」

西田谷洋先生より 「信仰としての文学教育」(『富山大学日本文学研究』8、2021)をご恵送頂きました。 簡単に内容をまとめさせていただきます。 田中実氏の第三項理論とは 作品の語り手を実体的に捉えます。そして、読書という行為を、読者がその語り手を「…

押しつけられた一生懸命を捨てて、自分に従う_『あやうく一生懸命生きるところだった』

ハ・ワン『あやうく一生懸命生きるところだった』(ダイヤモンド社、2020)を読みました。 面白かったポイントをまとめます。 過大な評価・過大な目標は、不幸のもと ほんの少し顔を上げて周囲を見渡すだけで、他の選択肢が色々あると気づくのに、執着してし…

レビュー_大木志門『徳田秋声と「文学」』

『徳田秋声と「文学」』(鼎書房、2021)を、大木志門先生よりご恵送いただきました。まずは、各章の内容をまとめます。 第1章 秋聲旧蔵原稿『鐘楼守』から見る明治の文壇 『鐘楼守』は、伊藤重治郎が下訳し、それを秋声が直し、尾崎紅葉の署名で出版したも…

今日を生き抜いた私ってスゴい!_『「その日暮らし」の人類学』

小川さやか『「その日暮らし」の人類学』(光文社、2016)を読みました。 一言で言えば その日暮らし、と言われる経済生活に、今ここを生きる、強さと喜びがあることが指摘されます。 もう少し詳しく コピー商品にはインフォーマルな価値がある コピー商品や模…

全体を見て、身体で感じる_『菌の声を聴け』

渡邉格・麻里子『菌の声を聴け』(ミシマ社、2021)を読みました。 個人的に面白かったポイントをまとめます。 身体を動かすことは、楽しい 面白いもので、人間は動いていると思考が楽観的になる。22 日々作業に追われる中で怪我もしたけれど、体を動かして…

文字を読むときの脳のしくみ_『プルーストとイカ』

メアリアン・ウルフ『プルーストとイカ』(インターシフト、2008)を読みました。 一言で言えば 読書や読字において、脳がどのように働くのかを、生物学的に説明しています。 ディスレクシアを主な対象としてます。 個人的に気になったポイント 子どもには、5…

レビュー_木村洋「女哲学者、平塚らいてう」

木村洋氏の「女哲学者、平塚らいてう」(『日本近代文学』105、2021)を読みました。 一言で言うと 1900年代に、哲学が、若い世代の自己主張の土台になっており、その動きが同時期に文学作品に取り入れられた、ということです。 もう少し詳しく言うと 2では…

教室で文学作品を精読する_『「国語の時間」と対話する』

五味渕典嗣『「国語の時間」と対話する』(青土社、2021)を読みました。 一言で言えば 2018年に公表された「新しい国語」の批判と、作品を精読する授業の提案です。 もう少し詳しく言うと まず、新しい国語科を支える現状把握として PISA:読解力の低下 全…

素早く・たくさん・実社会の文章を読むのが、国語!?_『国語教育の危機』

紅野謙介『国語教育の危機――大学入学共通テストと新学習指導要領』(筑摩書房、2018)を読みました。 一言で言えば、 来年度から施行される高校の学習指導要領の改訂と、大学入試共通テストの批判です。 批判のポイントはいくつかありますが、私は、複数資料…

感情を揺さぶれ、情報伝達じゃない_『スティーブ・ジョブズ驚異のプレゼン』

カーマイン・ガロ『スティーブ・ジョブズ驚異のプレゼン』(日系BP、2010)を読みました。 私はおじいちゃん子・おばあちゃん子なので、いまだに帰省する度に祖父母の家に行きます。(この齢で〝子〟と書くのははばかられましたが、おじいちゃんおばちゃんに…

レビュー_若松伸哉氏「「孤独」な交友」

若松伸哉「「孤独」な交友――太宰治『惜別』と地方文化運動」(『日本近代文学』104、2021)を読みました。 一言で言えば 太宰治『惜別』を、国籍ではなく個人が孤独を介してつながる作品として論じています。 もう少し詳しく 一では、作品で地方性が強調され…

太らない薬の登場か_『糖尿病が怖いので、最新情報を取材してみた』

堀江貴文『糖尿病が怖いので、最新情報を取材してみた』(祥伝社、2021)を読みました。 私は糖尿病に関心があるので、これまでもいろいろ読んできました。当書は、糖尿病のしくみや予防に関する知識をコンパクトにまとめています。そのなかでも、いくつか発…

もうものづくりの時代じゃない_『資本主義の新しい形』

諸富徹『資本主義の新しい形』(岩波書店、2020)を読みました。 一言で言えば 日本の企業や政府が、ものづくり産業にこだわりすぎたばかりに、IT化デジタル化に乗り遅れたことの指摘と、人的資本に投資する新しい経済の提案です。 資本主義は長期停滞し…

レビュー_池谷裕二『脳には妙なクセがある』

池谷裕二『脳には妙なクセがある』(扶桑社、2012)を読みました。 面白かったポイントについてまとめます。 持つ語彙で思考や行動が変わる これは国語の教員として、嬉しい情報でした。私は工学を専門にする学生を相手に、国語の授業をしています。当然ではあ…

レビュー_アダム・ハート『目的に合わない進化』

アダム・ハート『目的に合わない進化 進化と心身のミスマッチはなぜ起きる』上下(原書房、2021)を読みました。 一言でまとめると この本は、人間が進化の過程でどのような特徴を得てきたか、そしてその特徴が現代社会でどのようなミスマッチ問題を起こして…

レビュー_『知を再構築する 異文化融合研究のためのテキストマイニング』(ひつじ書房、2021)

内田諭・大賀哲・中藤哲也編『知を再構築する 異文化融合研究のためのテキストマイニング』(ひつじ書房、2021)を読みました。 本書は、KH Coderを使用したテキストマイニングの基本的な使用法と、KH Coderを利用した具体的な研究実践が報告されています。 第…

レビュー_林俊郎『「糖」が解き明かす人類進化の謎』(日本評論社、2018)

林俊郎『「糖」が解き明かす人類進化の謎』(日本評論社、2018)を読みました。 これまでも人類史についての本はいくつか読んできました。人類は、肉食または骨髄食だったという見解をよく目にしましたが、林氏はそれとは異なる説を提唱します。 この本は、2…

レビュー_エドワード・W・サイード『知識人とは何か』

エドワード・W・サイード著、大橋洋一訳『知識人とは何か』(平凡社、1998)を読みました。 知識人の性質として、重要なポイントは、次の3つにあると読みました。 ①表象(代表、代弁)する 「わたしにとってなにより重要な事実は、知識人が、公衆にむけて、あ…

レビュー_林成之『脳に悪い7つの習慣』(幻冬舎、2009)

林成之『脳に悪い7つの習慣』(幻冬舎、2009)を読みました。 その名の通り、やってしまいがちな7つ思考や行動のパターンが、いかに脳の働きを阻害するかが指摘されます。 まず、本書で前提とされるのは 脳には「生きたい」「知りたい」「仲間になりたい」と…

レビュー_ 『科学者たちが語る食欲』(サンマーク出版、2021)

デイヴィッド・ローベンハイマー、 スティーヴン・J・シンプソン『科学者たちが語る食欲』(サンマーク出版、2021)を読みました。 久々に大きなショックを受けた本でした。私は、高タンパク質/高脂肪/低炭水化物の食事を心がけていましたが、これが必ずし…

レビュー_有田秀穂『疲れない人の脳』(三笠書房、2020)

有田秀穂氏の『疲れない人の脳』(三笠書房、2020)を読みました。 本書は、セロトニン・オキシトシン・メラトニンの合成分泌を促し、快活な生活を送るための具体的な方法が書かれています。 本書で提案される具体的な方法の骨子は、デジタル機器に接する時…

レビュー_德本善彦「断絶としての差異」(『日本文学』70(8)、2021)

今月発行の『日本文学』を読みました。 德本善彦氏の「断絶としての差異」(『日本文学』70(8)、2021)についての、まとめと感想です。 内容を一言で言えば、 坂口安吾「イノチガケ」の前篇と後篇の語りの差異が、当時の歴史文学論争における2つの立場の差…

レビュー_加藤夢三「献身する技術者」(『日本文学』70(8)、2021)

今月発行の日本文学協会の機関誌『日本文学』を読みました。 加藤夢三氏の「献身する技術者」(『日本文学』70(8)、2021)についての、まとめと感想です。 内容を一言で言えば、 1930年ごろに横光利一が行った、「民族」と「科学」とを結びつける主張は、科…

本のレビュー_池谷裕二『パパは脳研究者』

脳科学研究者の立場から、筆者ご自身の娘さんの成長を分析された本です。 子どもの小さな成長のしるしが、脳科学的に意味づけられるのが、面白かったです。例えば、ウソについてです。ウソをつけるようになったと言うのは、時間的・空間的・心理的パースペク…