牧千夏の話したいこと

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レビュー_林俊郎『「糖」が解き明かす人類進化の謎』(日本評論社、2018)

林俊郎『「糖」が解き明かす人類進化の謎』(日本評論社、2018)を読みました。

 

これまでも人類史についての本はいくつか読んできました。人類は、肉食または骨髄食だったという見解をよく目にしましたが、林氏はそれとは異なる説を提唱します。

 

この本は、200万年前に始まった人類の大脳化の謎を解き明かします。大脳化とは、脳の容積がこの200万年の間に3倍に増えたことを示します。

 

面白かったポイントについて紹介します。

①大脳化の主役はグリア細胞—90ページ

脳の細胞には、神経細胞ニューロン)とグリア細胞の2つのタイプがある。

グリア細胞ニューロンを取り巻くことで、情報伝達を確実に素早く行う。神経細胞ブドウ糖をそのままでは使えず、グリア細胞によってブドウ糖を乳酸に変えて取り込んむ。

脳の容積の90%以上がグリア細胞であるので、大脳化で容積を増やしたのは、グリア細胞のよう。

ブドウ糖の大量摂取によってグリア細胞が増加した—106ページ

ある時からブドウ糖が脳に大量流入するようになった。当時の脳はブドウ糖に飢えており、過剰にブドウ糖を取り込む習性が身に付いていた。突如流入してきた大量のブドウ糖を消費させるために、グリア細胞は細胞を増やし、大量のエネルギーを押し付けられたニューロンは発達せざるを得なかった。

 

ブドウ糖の大量摂取は火の使用による根茎の加熱—140ページ

生のデンプン粒子を哺乳類はうまく消化できない。けれど加熱すると結晶構造が崩れブドウ糖にまで消化できる。火の使用によって、これまで消化できなかった根茎をブドウ糖にまで消化できるようになり、ブドウ糖を大量摂取できるようになった。

 

④人間は肉食動物ではない

  • 人間はビタミン類を合成する能力がないため、果物類を食べざるを得ない。—85ページ
  • 人類は平らな爪で小さな犬歯しかもたない。—120ページ
  • 大脳化の要因を、肉食による高カロリー食の摂取だとする説があるが、それならば肉食動物の中にも大脳化した生物がいるはず—129ページ
  • タンパク質の大量摂取は体に負担がかかる。タンパク質は窒素と硫黄が含まれている。窒素は有毒な尿素となり。そのの尿素の処理のために腎臓に重い負担がかかる。硫黄は硫酸イオンとして排泄される妻カルシウムやアルカリ性のミネラルを大量に失う。—146ページ

 

他にも面白かったこととして

・他の動物の新生児並みに生まれるのであればさらに後1年間は母体内で育たなければならない—79ページ

…息子たちを思うと、深く頷いてしまいます。

ブドウ糖は反応性に富む。血糖値が高いと血液中の生細胞やヘモグロビンに手当たり次第に結合して劣化させる毒性がある。—99ページ

…これが高血糖の弊害なのですね。

 

専門家からすれば飛躍がある説なのかもしれませんが、私としてはとても面白く読みました。糖との付き合い方を考えるには、多方面の知識が必要ですね。