西田谷洋先生より
「信仰としての文学教育」(『富山大学日本文学研究』8、2021)をご恵送頂きました。
簡単に内容をまとめさせていただきます。
田中実氏の第三項理論とは
作品の語り手を実体的に捉えます。そして、読書という行為を、読者がその語り手を「わたしの中の他者」として立ち上げ、さらに「わたしの中の他者」と読者の主体とが戦うことだと捉えます。
そうした主体どうしの戦いによって、読者は自己倒壊でき、それを人間的な成長として捉えます。
運動ととしての特徴
具体的には
- 排他的で独占的な誌面編集
- 攻撃対象への差別的な表現
- 学会運営
を用いて、日文協のなかでひとつの位置を占領することになりました。
しかし、なぜこのような熱烈な支持を得ることができたのでしょうか。
それは、田中氏の理論が、文学を愛してはいるが、テクスト論や文化研究によって抑圧されてしまった一部の文学研究者・国語教育研究者・国語教員に救いを与えたからです。彼らの鬱屈をはらし、 みずからこそが目覚めた者だと思わせたのが、田中氏の理論でした。
支持者自身の不満の解消と自己解放が託されているからこそ、信仰的な様相となったわけです。
感想
大変面白かったです。話題になっているから田中氏の論については1度勉強しないと、と思っていました。しかし、なかなか手が伸びず、そのままになっていたのですが、それがコンパクトに整理され、大変勉強になりました。まさにご学恩です。
そして、田中氏の理論がどのような人に支持されたか、という点についてもなるほどと思いました。
作品それ自体の価値を強く捉え、読書を自己の変容と考える方は、たしかに一定数いるような気がします。そうした考えは、作者や作品から権威を剥奪し、作品をさまざまな文脈の組み合わせと捉えるテクスト論、および作品を政治的な観点からテクストを分析・批判する文化研究とは、合わない気がします。
研究の方法論は、単なる合理的・客観的な手段ではなく、それを使う分析者の人間を背負わされているときがあります。その仕方なさと難しさを感じました。