紅野謙介『国語教育の危機――大学入学共通テストと新学習指導要領』(筑摩書房、2018)を読みました。
一言で言えば、
来年度から施行される高校の学習指導要領の改訂と、大学入試共通テストの批判です。
批判のポイントはいくつかありますが、私は、複数資料を比較するという作問が困難だということと、ナショナリズムおよび公共のイデオロギーを浸透させる傾向にあること、の2点が印象的でした。
センター試験廃止後の、大学入試共通テストでは、国数英の3教科が大きく変化します。とりわけ国語は、学習指導要領の改定に伴って大きく変わることになります。p.13
大学入試共通テスト記述問題(2017年5月・モデル問題)の問題点
このテストは
- 行政機関の広報資料
- 駐車場の契約書
からの出題があります。
しかし、問題点として
- 補助金の利用を促す模範解答。公文書への反発を抑制させる危険性p.45
- 無署名の資料であるため、作家の主観や表現方法の学びにならないp.47
- 抽象的・観念的文章の読解でなく、実用的な交渉術と理解力を問うp.60
- シュチュエーションの理解や条件提示が煩雑すぎる
が挙げられます。
出題の意図は、大量の情報を多面的に精査させ、構造化させることにあるようです。
学習指導要領の改訂のポイント
- 主体的・対話的で深い学び
- カリキュラム・マネジメント
- 開かれた評価にするために民間の試験を導入する
背景:技術革新と社会変化のスピードが上がり、情報量も莫大にp.75
→人の知恵を借りて議論し、問題解決することを求められます。
では、高校の国語は具体的にどう変化したのでしょうか。
現代の国語(必修2単位)←国語総合
実社会・実生活で用いる国語能力をつける。根拠のある議論や論述、資料を解釈する力をつける。p.96
…文学は、ここに盛り込めない。(第一学習社は入れた)
言語文化(必修2単位)←国語総合
現代の国語と変わらないが、「我が国の言語文化の理解を深める」点が異なる。古典が含まれる。
国語総合との違い
重要なのは、一回り小さなフィールドで、古典と近現代文学とがが争うことになったことです。その結果、
- 小論文・議論のボリュームが増える
- 近現代文は分野は減少、おそらく幼稚な論理展開のものに
- 古典が重視されるが、古典嫌いの解消と現代のつながりを意識させるため、平易なものにp.100
となると指摘されます。
論理国語(選択4単位)
- 論拠の批判的な検討、多面的な視点で、文章を書き、読む
- 近代以降の論理的な文章、実用的な文章
- 複数の文章の読み比べ
文学国語(選択4単位)
言語文化のレベルアップバージョン
古典探求(選択4単位)←古典A、B
- 伝統文化を重視というねらいから生まれている
- しかし、理系はまず選択しない、文系としてもリスキーな科目となるはず
総じて、今回の改訂は
実社会で働く労働者として、最低限の読み書きが出来て、職場で役立つ人材にしたいという本音が見えた改訂である。p.109
と指摘されます。
大学入学共通テスト(プレテスト2017年11月)の問題点
センターとの違い
- 国語は52頁。センターの国語より6頁ほどボリュームアップ。
- 試験時間は100分へ。←センターは80分
- 問題文の増加で鍛えられるのは、瞬間的な判断能力。p.157
- これまでのセンターでは、素早い読解と解答とが求められた。それでは「思考力・判断力・表現力」が身につかないという反省から、改革が起こったp.170
- 国語全体の試験構成が複雑になる
出題 規約、会話文からの出題
- 「公共」の概念を絶対条件として受け入れようというイデオロギーがみえるp.186
- 国語の教科書は、多様な書き手のアンソロジーであった。その意味を忘れている
- 資料をまたぐという条件は、問題文選びでも問題作りでもかなりの制約p.228
記述問題の意味
記述問題は、大学入試のような大規模な形で実施するべきでなく、各高校教員が担うべきだとされます。
その理由として
- 記述問題の採点は数百人規模なら可能
- ただ1回の記述式問題で、それほど生徒の能力は変わらないp.254
- このようなテストにこれほど採点の労をさく必要がない
- 際の国語の授業の中で、記述式の問題を増やし、小論文形式の課題を取り入れる方が効果的。
以上、ざっくばらんにまとめました。
私は、高校教員時代、センターに記述問題を入れてほしいと思っていました。しかし、当書で指摘されたように、運用の難しさとテストの内容を見ると、無理だな、と思いました。
ただ、入試で記述が出ないと、記述問題に対する生徒のモチベーションが上がらないのです…。私は、これまで理系の担任ばかりしてきました。丁寧な読み取りや、言葉遣いを学ぶために記述問題はとてもよいのですが、「俺らセンターだけだし」と言われて、あまり熱心に取り組んでもらえませんでした。
国語の勉強のモチベーションを、入試やテストだけに頼っていてはいけないのですが、やはり入試がどうあるのか、というのは重要です。
大変勉強になりました。