牧千夏の話したいこと

読んだ本や考えたことを勝手に紹介しています。

ドーパミンはドラッグ_アンナ・レンブケ『ドーパミン中毒』

アンナ・レンブケ『ドーパミン中毒』を読みました。

 

印象に残った部分と感想をまとめます。

 

  • 神経科学者のノーラ・ボルコウらはドーパミン物質を大量に摂取すると、最終的に脳ドーパミン欠乏状態になることを示した。(略)ボルコウ博士らはこう書いている。「薬物乱用者においては、ドーパミン放出が減少するとともにドーパミン受容体D2も減少することから、自然な報酬刺激への報酬回路の感受性が低下する」。一度これが起こると、何があってももう喜べなくなってしまう。_81ページ
  • 現代人は依存症になりやすくなっているが、それはドラッグが人間にまだ身体があることを思い出させるからではないか、と私は思うことがある。ゲームも依存しやすいものの一つだが、人気のゲームはその中でキャラクターが走ったり跳ねたり登ったり打ったり飛んだり、身体を派手に動かす特徴がある。(略)現代人はセックスに依存することがあるが、セックスはまさに現代まで広く残っている最後の身体活動だからなのかもしれない。_204ページ
  • エクストリームスポーツや耐久スポーツをやっている人は皆依存症だと言っているわけではない。そうではなく、どんな物質、どんな行動にも依存症になる可能性はあり、そのリスクは得られる効果が強ければ強いほど、量や持続時間が増えれば増えるほど上がるということを言いたかっただけだ。シーソーを苦痛の側にあまりにも強く、押し付けた人たちをまた、ドーパミン欠乏状態に陥ることになってしまうのである。_225ページ
  • 私は時々、仕事を一度始めるとやめるのは難しいと思うことがある。深い集中に入る”フロー”と呼ばれる状態はそれ自体がドラッグであり、ドーパミンを放出し高揚状態を作り出す。それ以外何も考えられないというこの種の集中状態は、現代の豊かな社会の中で高く報酬が与えられるものになるものだが、それ以外の人生のものごと――友達や家族のつながりから私たちを切り離すは罠にもなり得る。_228ページ
  • 親密さはそれ自体がドーパミン源となる。恋に落ちることや母子の絆を作ること、性的な結びつきを生涯のものに変えることに関わる大事なホルモン「オキシトシン」は脳の報酬回路のドーパミン神経細胞の受容体に結合する。報酬回路の活動を高めるのである。(略)妻に正直に打ち明け、彼女から温かい言葉で共感を示されたことで、ジェイコブの脳の報酬回路にはオキシトシンドーパミンが放出されたことだろう。そしてそれは、彼にまたそうしようという気持ちを起こさせることになる。/真実を語ることが人間同士の愛着を作る一方で、高ドーパミン製品の衝動的な摂取は愛着とは正反対のものをもたらすことになる。孤立や無関心に導くのだ。なぜなら、ドラッグが他者との関係性の中にいることで得られる報酬の代わりになってしまうからだ。_249ページ

 

感想

ドーパミンは自分の身体が作り出す神経伝達物質であり、それは強い快楽を感じさせるものだから、まあよいものだろうと安易に考えていました。でも、ドラッグと同じで、激しくドーパミンを放出させるものごとは、危険が伴います。より激しいドーパミン放出を求めるようになり、それが止めどない点で人を依存させてしまうのですね。私は「楽しい」「面白い」至上主義的なところがあるので、あぶないなと思いました。

 

別の観点で心打たれたのは、次の部分です。

しかし私はプロザックをやめたことは後悔していない。プロザックを服用していない時の私の人格は母には合わないが、そうでなければ決してできなかったようなこと私にさせてくれる。/今、私は自分がいくらか不安を感じやすく、鬱っぽく、懐疑論者であることに納得している。私は摩擦と挑戦と努力と闘争が必要な人間だ。寝台の長さに合わせるために、客の足を切り落としたギリシャ神話の宿屋のように、私は世界に合わせて自分の足を切り落としたりしたくない。誰もそんな風にされるべきではない。_183ページ

私は、常に冷静沈着で温和で理性的であれというのが、苦手です。私は、調子に乗りやすく、激情家で、情にもろい人間だからです。こんなポンコツだからこそやってしまった失敗というのは数知れないのですが、こんなポンコツだからこそ育てられた人間関係もやっぱりあります。だからといって、激情に任せてパワハラやセクハラをしてもよいと思っているわけではありません。でも、はみ出た足と手を切り落とされるのは、やっぱり誰でもつらいですよね。

自分のはみ出した足で誰かを傷つけることには気をつけながらも、伸ばせる範囲で伸ばしたいし、人のはみ出た足につまづいても、なるべく寛容でありたいと思いました。